ツキ吞み⑪「柿の葉寿司とLINEと黄色いワンピースの巻 下巻」

 

吞みたい気分でツキイチエッセイ

「柿の葉寿司とLINEと黄色いワンピースの巻 下巻」

 

(ツキ吞み⑩から続きます)

 

 かつてわたし同様「LINE嫌い」を語っていらした朝井リョウ氏(ツキ吞み①参照)。きっともちろん現在は便利に使っておられることとは思いましたが、どうしても確認したい気持ちが抑えきれず、事前にアンケートに書いた上、直接質問もするという所業にでたわたしに、朝井氏はしっかりと目を見据え、こう答えてくださいました。

 

「LINEのよいところを、見つけたんですよ」

「それは、時候の挨拶を飛ばしていきなり用件に入れることです」と。

 

 朝井氏の答えは、おざなりでないばかりか、『LINEが好きではないけれどやらざるをえない人たちへのエール』となっていたのでした。

 

 トークイベントに話は戻りますが、朝井氏の話は、聞き手を決して飽きさせぬようにと配慮する意識を強く感じるものでした。会場内がわずかにゆらぐような空気を敏感に察知しては言葉を替え、話題を選び替えます。質問者の意図と観客の意識の両方を受け止め調合し、偽りのない言葉で自分の意思を提示する努力を惜しみません。

 

 朝井氏の書く作品における的確な心理描写について訊かれた際にご本人は「人が好きだから」とおっしゃっていました。トークイベントという場において、自分も他人も心地よくなることを優先できる柔軟さは、人という生き物の繊細で不自由で不明確な部分をつぶさに観察すること、しようとすることによって得られる技量。一言でいえばまさに「人が好き」ということなのでしょう。

 

 サイン会の際に何百人という人数のひとりひとりに対して「個人を見る」朝井氏。

 

「LINEを始めましたか」「やってみてどうでしたか」

 

 尋ねれば必ず答えが聞ける。この確信こそがわたしを躊躇なく奈良へと向かわせたのだと再確認した次第です。

 

 話変わって、トークイベントの時ですが、かつて小説を書くワークショップを経験したことがあると語った朝井氏。名前が伏せられた作品に登場した「黄色いワンピースを着た金髪の女性」の作者を「絶対に男だとわかった」と話されたことが、当日その会場におられたみなさんの印象に強く残ったようで、ツイートにあがっていましたし、わたしも印象に強く残りました。

 

「男性作家はワンピースが好き」「女性作家はパーカーが好き」という話も楽しく聞きつつ、こっそりと「男性作家は女性に体の線が出るセーターを着せるのが好き」という自説を想起していたわたしなのです。

 

2017/4/4