オススメ!!「さよなら、田中さん」

『さよなら、田中さん』

鈴木るりか/著

小学館/刊

 

 単行本や新刊はめったに買わない。話題作と知っていても、「なるほどこれがそうか」程度で済ませてしまう。好きな作家の文庫であったとしても、最初の数行~数ページまで立ち読みしてのち続きが読みたいかどうかをしばらく考えてからしか買わない。ことほどさようになるべく買わない。置き場所と書籍代の限界値が常に念頭にあるからだ。

 

 そんなわたしをして瞬時に「買う」と決めさせた力が、この本にはあった。一行目からあった。冒頭から吸い込まれるように読み進めるしかなくなってしまうほどの威力だった。

 奥付を見ると、引き込まれまくったこの冒頭の作品が書かれたのは、作者が小6のときだという。すごいすごい、ただものではない ! 興奮しながら次々に、エッセイと思いながら、作者の人となりや周辺事情などを勘案しながら読み進む。このころにはすっかりこの作家のファンになっている。ワクワクしながら突入した5本目で、ところが突然一人称が「僕」になった。あれ ?小説 ? ではこれまでの4本は ?

 

 5本目こそが表題になっている『さよなら、田中さん』だ。ここまでの4本において知りえたずば抜けた文章センスのみならず、家族やクラスメイトや大人たちとのかかわりにおいてもすばらしい行動力を示して魅力的だった女の子が、この作品においては「僕」のクラスメイトとして描かれていた。

 

 なんと、創作だったのだ !

 びっくりした。そして感動しなおした。自分を見つめる冷静さ。近親者やクラスメイトをはじめあらゆる人々に向けた観察眼の鋭さ、洞察力の深さ。のみならずその勢いある文章からは、彼女が周囲の変化にも敏感に反応しては、細かいネタを積み上げるようにしてどしどし創作していったことが感じられて、ついニヤニヤしてしまう。彼女の文章はとてつもなく爽快で痛快。感動して泣かされもする。表題作にわたしは号泣してしまった。

 

 この本に出合えたことに心から感謝しました。

 この本、超オススメです。あらゆる年代の方へ。あらゆる立場の方へ 。

 一番は……作家志望の若者へ。創作を楽しんでいる作者のワクワクをぜひ味わっていただきたいとおもいます。

 

 

 編集 2020年4月3日