本談義「文庫X」

 (ミニ)ビブリオバトルに倣いテーマを決めて「しゃべれば3分」程度の分量と重量で紹介する「本談義」

 

 本日のテーマは、"絶望に足を取られないための本" です。

 

『殺人犯はそこにいる ― 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 ― 』

清水 潔 / 著

新潮文庫

 

 2016年に『文庫X』として話題をさらったこの本。購入したのはタイトルが明らかになってからでしたが、読みながら何度も何度も「読んでよかった !」「ありがとう !! (著者にも、話題を作ってくださった書店員さんにも)」と叫びたい思いにかられました。

 

申し訳ありません。僕はこの本をどう勧めたらいいか分かりませんでした。どうやったら「面白い」「魅力的だ」と思ってもらえるのか、思いつきませんでした。

だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました。

(中略)

それでも僕は、この本をあなたに読んで欲しいのです。

 

 『文庫X』を生み出した「さわや書店フェザン店」の店員さんの手によるカバーには、熱くたぎる思いが手書きの一文字一文字にこめられ、そのおかげでこの本はより多くの読者の手に届きました。

 

 

 関東地方の地図を広げ、北部のある地点を中心に半径10キロほどの円を描いてみる。

(中略)

 その小さなサークルの中で、17年の間に5人もの幼女が姿を消しているという事実を知ったらあなたはいったいどう思うだろうか。

 

 ジャーナリストである著書は、バラバラに扱われ、中には犯人が検挙されているものも含む数々の事件が、別の同一犯による連続誘拐殺人事件であるという確信を抱きます。

 資料を集め、地図を広げ、現場へ出向き、目撃証言を集め、証拠を探し、常に考えを巡らせ続ける著者・清水氏。彼にはときおり「なにかがおかしい」「ふとした瞬間に何かが囁いた」というひらめきが生じますが、それは決して奇跡ではなく、彼の正義に基づいた執念がもたらすものに違いないと思われ、感動的です。

 

「どういうことだ」

「なんなのだ」

「すがすがしいほど」の「孤立ぶり」

 

 確固たる信念と断固たる行動を持って戦い続け、やっとの思いで真実への道筋を探し当ててもすぐにその道が塞がれるため、読んでいてもつらく「なんで」と歯噛みしたくなります。被害者が幼女だということもあって、手に汗握る思いで読み進んでは、立ちはだかるさまざまな壁に煮え湯を飲まされるような絶望感を味わわされ、あきらめざるを得ないのではという気持ちになりかけてしまいます。がそれは読者であるこちらだけ。清水氏は決してあきらめることなく次の一手へと進んでいきます。

 

 河原で瀬踏みを続けていても、川など永久に渡れるか。

 渡れるルートを見いせばよい。それだけだ。 

 

 この2行を目にしたとき、わたしはすぐに自分の手帳に書き写しました。どんなに追い込まれ打ちひしがれそうになっても「瀬踏みを続けていては永久に川は渡れない」と心に刻むことで、なんとかして足場を探そうとする勇気と、前進するための道を見つけようとする冷静さを持つ事ができる。わたしはこの本からそれらを教わった気がしました。

 

 苦しいときは、苦難の道をひるまずに進み続ける人の背中から勇気をもらうのが一番。これはわたしがそう痛感した本です。