えほんとわたし「風来坊」

 

 おすすめ本の中から、" 特に個人的に思い入れのある絵本" を紹介する「えほんとわたし」

 

本日はこちらです。

 

『風来坊』

川端誠 作/絵

BL出版より1998年6月刊行

私的おすすめ対象年齢 6歳以上

 

「おれは天下の風来坊」でおなじみ、『風来坊』シリーズ一作目。修行僧とは名ばかりの御経をあげない「風来坊」は、旅から旅へ行く途中、木彫りの腕で人助け。いかにも強そうな風袋だけど、だらしないところもあって憎めないお坊さんが主人公です。

 

 力強い表紙にたがわず、時代劇を見るような骨太で痛快なストーリーが、風来坊の人間味あふれる無骨な魅力を読み手の胸に刻んでくれます。

 

 自分のことを急に「オレ」と言い始める小学一年生の男の子から読んでほしい、カッコイイ絵本です。

 

酒は、よいちえをおもいつくのに

なくてはならぬ

 

 村人から助けを求められた風来坊は、ごちそうとお酒を要求しながらこう言い放ちます。

 

「酒はよい知恵を授けてくれる」。こんなセリフをいわせる"絵本"が存在するなんて !! はじめてこの本を手にしたとき、わたしはしばらくこのページから目が離せなくなりました。もちろん感激のあまり、です。

 

 

 シリーズ三作目には、火事から救い出した子どもと一緒に旅をする『風来坊の子守歌』という作品もあります。こちらもまた、読了とともに映画を一本見終えたような深い感動が残る名作です。

 

 

 ところでこの『風来坊』を知ったのは、小学生のときの我が息子が学校の図書館から借りてきたのがきっかけでした。普段まったく読書をしようとしない彼が選んだこの本。表紙を一目みて、なんて重厚そうなのだろうと驚いて手に取り、「酒はよいちえを……」のくだりですっかりファンになって、借りてきてくれた息子を大いに褒めたものです。

 

 息子にはつい叱ったり怒ったりで、ままならない子育てに歯がゆさや後悔の念を抱きっぱなしでした。そんな中、息子と向き合うおだやかな時間を運んできてくれたのがこの『風来坊』。そんな意味でも、わたしにとって大切な、思い出深い一冊です。