本談義『いらかの波』(漫画)

 (ミニ)ビブリオバトルに倣いテーマを決めて「しゃべれば3分」の分量と重量で紹介する「本談義」

  本日のテーマは、" 家 "です。

 

『いらかの波』全5巻

河 あきら / 作

集英社文庫(コミック版)

 

「赤い瓦屋根」にこだわる中学生の渡が、養護施設から引き取られ、あらたな家族となる老夫婦の元へやってきたところから始まるストーリー。連載期間は三年を超え、渡の高校生活までが描かれました。

 

その家を見たとき まず思った

べつにどうってことじゃないんだけど

…瓦の屋根じゃあないんだな…

 

 クラスメイトを始め、教師を含む周囲の大人たちにもストレートな態度でぶつかっていく渡は、転入生としてはいった学校にもすぐになじみ、存在感を出していきます。最初こそ引き取られた家の夫婦に気を遣っておとなしい子を演じていたけれど、じきにそれもバレ、家族の関係もますます良好になっていきます。

 

 とにかく渡を筆頭に登場人物が魅力的。クラスメイトに教師たち、他校の生徒、親兄弟から親類縁者までを描きつくしながら、その一人一人に個性があり、その存在に説得力があり、生命力に満ちています。誰に対してもストレートな態度を貫く反面、難局を柔軟に切り抜ける本能が垣間見える渡が持つ、一見何も考えずにむちゃばかりやらかしているようでいて、常に"自分なりの正解"を、人を見つめて目をそらさないでいられる強さ。それは、親を事故で亡くした痛みを抱える渡の、周囲の人々に幸福であってほしいと願う本能だと感じます。

 

 コミカルな展開の連続に笑いながら、シリアスな人生ドラマを体感することができていた長編漫画。毎話ジーンとさせられ、考えさせられました。最終回を迎えるのがこれほど辛かった作品は他にありません。連載時(70年~80年代)もそうでしたが、あれから何年経とうが何度読み返そうが、彼らの人生の一部をがっつり共有している感覚がなにせぜんぜん抜けないという(笑)。人気漫画が映画になったり、実写化で話題になったりするたびに、この作品も動画で見てみたいなあと思ってしまいます。

 

 

 この作品が連載されていた「別冊マーガレット」と、この作品の作者・河あきらの大ファンだったわたし。当時のコミックはすべて手放していましたが、数年前に中古本で見つけ、どうしても再び手元に置きたくて買い直しました。欄外まで書き込みが多い漫画家さんですが、驚いたことにすべてもれなく覚えていました。おかえり! という感覚でした(^^)/

 

 当時どんなにこの作品が好きで、思い入れが深くても、主人公がこだわる「瓦屋根」についてはほとんど興味関心を持つ事ができませんでした。

 

 ところが、ふと気づけば現在住んでいる我が家の屋根はまさしく、この集英社文庫1巻に似た「赤い瓦屋根」(それこそ思い入れもなく住み始めてた……)。これが昨年の台風で一部損壊したため、数か月後にはすべて葺き替え、瓦は撤去されることが決まっています。台風被害の恐怖を思えば瓦に未練はないけれど、いまさらながら、そうか、渡がこだわった赤い瓦屋根の家にわたしは住んでいるんだな、と「STAY HOME」と言われる今特に感慨深く思いました。気づいてよかった💦