えほんとわたし『くわずにょうぼう』

 

 おすすめ本の中から、特に個人的に思い入れのある絵本を紹介する「えほんとわたし」

 本日はこちらです。

 

 

『くわずにょうぼう』

稲田和子/ 再話 赤羽末吉/画

福音館書店/発行(初版1977年)

私的おすすめ対象年齢 4歳以上

 

むかし、うんとよくばりのおとこが

ひとりですんでいたそうだ

 

 ケチな男が「働き者な上に、ご飯を食べない女房が欲しいものだ」と願ったところ願いかなって「めしはくわないし、くるくるとよくはたらく」うつくしい女房がやってきます。ところが期待に反して蔵の米は増えるどころか減るばかり。こっそり天井裏から様子を見ていると、うつくしい女房はたちまちおそろしい正体をあらわします。

 

 女房になる女があらわれるときの「ぴた ぴた ぴた」や、米をとぐ際の「じゃき じゃき」、握ったにぎりめしを並べていくときの「ぴつっ ぴつっ」など、多用される擬音と力強い語り口がシンプルで勢いのある画とマッチして、昔話ならではの深い味わいが得られます。

 

 

 『くわずにょうぼう』は、素話として何度か語らせていただいてきた、とても好きなお話。中でも、おにばばが男を運ぶときの「しっとり しっとり おもたいわい」の、木の桶と人ひとりの重さが「しっとり しっとり」とあらわされるところに強く惹かれています。

 日本の昔話としては、『飯食わぬ女房』として伝えられることの多いお話で、柳田国男の『日本の昔話』にも同タイトルで掲載されています。どちらもおにばば(あるいはやまんば)は最後、よもぎの葉と菖蒲の葉によって苦しみ、死に至ります。

 

 小学校で語らせていただいた際は、低学年のお子さんに「よもぎの葉」と「菖蒲の葉」のイメージをわかってもらいたくて、このような準備をしていきました。今と同じ五月ならよかったのですが季節が違っていたので本物は用意できず、イラストにさせていただきました。鯉のぼりと共に思い出してくれていたら嬉しいのですが。

 

 一部緊急事態の解除はなされたものの、いまだ「STAY HOME」を手放す余裕はない現況です。でも、外は風薫る五月。窓を開け風を通し、よもぎを食し、しょうぶ湯に入り、自分が元気でいるための時間を大切にして健やかでいられるといいですね。